月夜見 “デジャヴはジャパンブルー”
         〜大川の向こう より


4年に一度のフェスティバルが、今年は2つも重なって。
直接、それへと参加している人たちは勿論、
サポーターもまた、
観ているだけなはずの展開へ、心から一喜一憂してしまう。
それが、とっても身近で親しみやすいものであればあるほど、
感情移入も深まるし、
熱狂の度合いだって、そりゃあ高まるっていうもので。

  ただまあ、
  またしても時差のある国での開催だったので。

いつもの休日同様に、
大好きなお友達のお家までをのして来た腕白さんだったが。

 「…ぁよう。」
 「? ああ、おはよう。」

目許の、いやさ…お顔の焦点が、
何となくぼんやりとしているような。

 「…………………zz。」
 「お〜い、ルフィ〜〜〜?」

どちらかといえば朝型で、
怠け者の節句ばたらきなんかじゃなく、
休みであろうとなかろうと、
お天道様と同じに、そりゃあ溌剌としているはずのルフィ坊やが、
真ん丸なドングリまなこを とろろんと曖昧にぼやかしており。

 「さては、昨夜のW杯の中継、観てたな?」
 「ううぅ……。」

どうやら寝不足な彼であるらしく、
いつもならじっとしているのさえ珍しい腕白だってのに、
今は…立ってるだけの彼なその上、
その小さな肢体が、
風もないのにゆらんゆらんと覚束なく揺れており。
半分寝ている状況なのが、ありあり判る。

 “こういうこいつって、半年ほど前にも見たことあんよな。”

眠くて眠くてたまらないというのがありありしていて、
瞼が上がり切らなくての半眼になってる目許のまんま、
うにむにと言い返して来た様子までもが
あのころとお揃いの皇子が紡いだお返事はといや、

 「だってよ、
  昨夜のは絶対に観ないといけない試合だったじゃんか。。」

南アフリカで開催中の、サッカーのW杯世界大会。
本線開始の直前まで、どっカ不安だなんて言われていた日本代表は、
そんな下馬評なぞどこ吹く風かと、
集中力も途切らさずの、それは伸び伸びとしたプレイを展開。
カメルーンに劇的勝利し、
FIFAがつけた順位で4位という強豪のオランダへも
1点どまりという食い下がりを見せたから。
こいつは凄いぞ、実は馬力も根性も途轍もないほどついてきてるぞと、
俄かなファンがどっと増え、
大画面テレビが売れ始めと、お留守番サポーターたちも俄然色めき立ったほど。
そんな日本が、先の未明の試合でデンマークを下したことで、
その熱狂も頂点へと達し。
こんな田舎の小さな中州の里でも、
子供らの話題はサッカー一色になっており。

 「剣道が専門のゾロだって、やっぱ観たんだろ?」
 「この年で“専門”って言われてもな」

彼らより少しでも大人な立場のお人が聞いていたなら、
なかなか即妙なツッコミだわねと感心しただろ、
それはお見事な言いようを返しつつ、

 「まあ上がれ。」

こちらさんは多少の夜更かしも平気な高学年生。
確かに昨夜の、11時キックオフというサッカーの試合は観たけれど、
二時には終ったそこから寝たので十分寝足りてる。
そういう条件は向かい合う幼馴染のおちびさんとて、
そうは変わらずの同じなはずだが、

 「…もしかして、おじさんたちが“残念会”とか始めたんだろ。」
 「うん。」

でんまあくのときは観してもらえなかったから、
ゆーベのは、シャンクスやエースや、
事務所のおっちゃんたちと一緒に観ててさ。
試合の最中からもビールとかいっぱいぱい飲んでたシャンクスとか、
しあい終わった途端“か〜〜〜、残念だったなぁっ”てゆって、
そのまま大騒ぎンなっちって。

 「俺よか年寄りなくせして、
  なんであんな元気なんだ、あのおっさんたちはよ。」

それによ、サッカーは子供も観るってゆうのに、
何でオリンピックん時みたいに、夜中に放送すっかなぁ。

 「地方のチームの試合みたいに、観る人が少ない訳でもないのによ。」
 「……そうだな、視聴率はすげえ獲れたっていうのにな。」

やっぱりの相変わらず、時差ってものが判ってないらしいルフィであり。
今日はゾロもお昼までだったのでと、
大川の向こうのガッコから帰ってきたところを見越し、
急襲したおちびさんだったらしく。
促されるまま、風通しのいい居間までを上がると、
眠たそうなお顔のまんま、定位置の縁側よりの窓辺へ座る。
夾竹桃のしたたるような新緑が
窓の外で川風になでられてはさわさわ揺れてて、
ほらと出された冷たい麦茶に“ありがとー”とよい子のお返事。
それからあのね? どこか感慨深げな溜息を一丁前について見せ、

  ――― オレも あの兄ちゃんたちみたいに、
      みんなをワクワクさせてぇな。

サッカーとかスポーツでか?
ん〜ッと、まだ判んね…なんて言ってた坊やが、
まったく別な方法で、世の中を沸かす存在になろうとは、
坊や自身も思いも寄らなかったらしい、
まだまだ幼かったとある夏のお話でございます。




  〜Fine〜  10.06.30.


  *W杯ものといったら、こちらさんも書かなきゃと、
   最後の〆めに登場です。
   日記にも書きましたが、
   肝心な延長以降を見ていない、罰当たりな筆者の代わりに、
   ルフィ坊や、頑張って起きてて観てたようです。
   冬の五輪といい、時差のある国での開催は、小さい子には大変だ。
(苦笑)


  
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